春は、ふわりと重い。
空気が軽い。体が軽い。
頬をすべる風がやさしい。
土の香りがほわんと舞っている。
春だ。
桜は咲いていないし、新学期は始まってないし、夜はまだ寒いけど、もう春。春でいい。春なのだ。
このわくわくする感じ、高揚する感じは、新しいクラスと新しい先生と…
何もかもが新しくなることがなんだかとってもうれしくて、うきうきしていたあの頃を思い出すからだろうか。
そしてこの、焦燥感のようなもの。
うきうきに隠れている、不安や緊張みたいなものがひとさじ。
乗り方のわからない電車。
地上に出られないほど広くて複雑な駅。
PASMOでピってすればいいの?なんて便利な!
会う人会う人、キレイな言葉だ。
耳慣れない。
とりとめのない話をずーーっとしていても、どんな話をしても面白くて、泣きたいときはちゃんと受け止めてくれたあの子たちは、いない。
全く歯が立たない授業を、うんうんと頷き発言するあのひとたちは、小さな頃から全然違う世界を見てきたひとたちだった。
騙そうと近寄ってくるおとな。
なにもわからず流されるままのじぶん。
どんどんペースが乱れる生活。
好きな人とLINEしてるときに「ごはんだよー」と二階に向かって叫んできて、鬱陶しいとさえ思っていた声は、もうない。
毎朝、私が眠気と葛藤している時間に聞こえた「いってきまーす」で生活が区切られていたのに。
その声も、もうない。
ドラマチックに何かが起こったわけじゃない。でも、ほんのちょっとずつ、混乱して、傷ついて、寂しくて、どこか焦っていた。
あの春を思い出すからだろうか。