寂しさとおせち。
お正月のひとけのない病院。
「A!」
唐突に医者に言われて私はなんのことかわからずに一瞬とまどった。体温で潤んだ目を先生に向ける。恋してるわけじゃない。高校のときの生物の先生に似てる、なんてことをぼんやり考えた。あの人って医者もやってるんだっけ…あれ…
「Aです。A+」
ああ、インフルエンザか。熱のこもった頭でやっと状況を飲み込んだ。
インフルと診断されてから私は家族にうつさないように部屋にこもっていた。
わが家では、インフルになった人を軽く隔離することになっている。
今日の夕食は父が部屋に運んできてくれた。
熱も下がり、だいぶ食欲がでてきていた。
重箱に入っていて(一段)、寿とついた箸が添えてありとても華やかだった。
父は「正月らしいべ~わが家のおせちだー」と笑い、部屋を出ていった。
すっかり標準語に慣れてしまった耳がその訛りをしっかりととらえる。
私は涙いっぱいに料理を噛みしめた。
別に夕食が華やかだったからじゃない。
バナナ一本でも、おかゆでも、コンビニのおにぎりだっていい。
ただ、父は母よりも愛情表現に関して不器用で…
ああ帰りたくない。もう少しだけここにいたい。
居間にいって一緒にテレビをみながら他愛もない話をしたい。
帰省するたびに戻りたくなくなってしまうけど、今回は心も体もだいぶ参ってしまっていて余計に。
慣れないなあ。このかんじ。
バックに入れておいた、帰りの新幹線の切符に書かれた発車時刻を確認する。
あと20時間。